村田修一の戦力としての価値

1.村田修一、今季限りの引退を発表

巨人から戦力外通告を受け、BCリーグ栃木ゴールデンブレーブスからのプロ野球復帰を目指していた村田修一が今季限りの引退を発表しました。NPB球団から7月31日の契約期限までに声がかからず、けじめとして今季限りの引退を決意したようです。

1軍の枠や金銭面などを考慮した上での12球団の判断かと思いますが、おそらく村田の「戦力としての価値」が一番大きな要因かと思います。では、選手の「戦力としての価値」はどのように測れば良いのでしょうか?このブログ記事では村田に焦点を当てつつ、戦力としての価値の測り方について少し触れます。野球を知っている方であれば今回の内容は当たり前のように感じるかもしれませんが、いざ分析する時にみんな忘れがちな視点を紹介していきます。これは全て持論ですので、異議があればコメントをください。

ちなみにデルタも今年初旬に村田の特集記事を書いており、若干内容が被っていますが面白いので是非。

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2.村田修一の戦力としての価値は?

2014年から2017年の打撃成績を出発点にしたいと思います。プロ野球中継がよく紹介しているデータを引っ張ってきました。

今回は主に2016年の成績に注目します。ぱっと見2016年の成績は他の3年間と比べ優れているように見えます。そうなると2017年の成績がいまいちでも、2016年並みの活躍をする事に賭けても良いかもしれません。しかしこの考え方には2つの落とし穴があります。

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(図1:データはNPBとデルタより)

落とし穴①:守備

野球というスポーツをやるからには野手は守備につかないといけません。とてもシンプルな考え方です。そうなると必然的に村田の守備に関する数字を考慮しなければいけません。

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(かの有名なサボテンダーサード)

近年のデータを見る限りですと、村田の守備は「マイナス」の一言に限ります。最近浸透しつつあるUZRの指標を見ますと、3年連続でマイナスです。マイナスの守備を補えるほどの打撃を村田から期待出来るのでしょうか?UZRの解説は省きますので、気になる方はこちらを読んでください。

少し視点を変えましょう。レギュラーとしてではなく、「代打専門、もしくは指名打者として獲得すれば良いのでは?」と思えば良いのかもしれません。守備に就く機会が少なければ守備から生まれるリスクを抑える事が出来ます。そうなると村田の打撃をより深く分析し、代打要員・指名打者として獲得する価値があるかどうかを考える必要性が出てきます。

落とし穴②:打撃の平均的なパフォーマンス

今回のブログ記事で協調したいのはこのポイントです:2016年はたまたま調子が良かっただけ。この点を分かりやすく説明するために、今回はISOと言う指標を例として使います。ISOは簡単に言うと長打力を示した指標であり、メジャー基準だとISOの平均値は0.140だと言われています。なので下の図2から読み取れるように、村田の2016年の0.202はかなり優れている数字である事が分かります。ですが2017年のISOは2014年・2015年水準の数字に戻っています。この変化をどのように捉えれば良いのでしょうか?

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(図2:データはデルタより)

村田が何かのきっかけを掴み、本当に復活したのであれば2017年は2016年と似たような数字を出せたでしょう。しかしそうではないので、これは「平均への回帰」と見るべきです。私は統計そこまで得意ではないので上手く説明出来るか分かりませんが、1回のケースで極端な結果が出ても、ケースを繰り返せば本来あるべき数値(平均値)に戻ると理解して頂けたら今回は十分かと思います。例えば定期試験でたまたま高得点がとれても、次回のテストでは本来獲るべきだった点数に回帰します。このブログがうまく説明していると思うので、僕の説明に嫌気が差した方はそちらを参照してください。

今回の単位は「各年度のシーズン」でサンプル数は少ないので特殊なケースではありますが、2016年の成績は「たまたま」平均から逸脱してしまった成績であると解釈出来ます(野球の実力は年齢曲線を辿るので平均値は毎年変わりますが、今回はスルーします)。それで2017年は平均へ回帰をした。

図3は私が作り上げた仮選手Aの年度別ISOをグラフで表したものです。2014年~2016年まで0.145辺りを推移していたISOは2017年に0.162と言う極端に平均から外れた数字を叩き出しています。これは実力によるもの?それとも偶然の産物?もし後者であれば、仮選手Aの2018年のISOは2014年~2016年のような数字に戻る(回帰)するはずです。野球以外のスポーツだと、レスターのプレミア優勝が分かりやすい例かと思います。

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(図3)

この現象は極端に良い成績を出したケースに限らず、成績が下がったケースにも当てはまります。例えばメジャーリーグハンリー・ラミレスパブロ・サンドバルは2015年を境に成績が急降下します。本当に能力が劣化したのか、それとも偶然起きた事なのでしょうか?ラミレスは2016年にプチ復活をしていますが、サンドバルは間違いなく後者のケースです。

村田のプロ入り後のISOを全て折れ線グラフにプロットすると図4のようになります。こう見ると村田の魅力でもある長打力は2008年をピークに下降線を辿っている事が分かります(プロ野球選手の平均以上は保っています)。図5から分かるようにISOは歳を重ねるごとに下がる傾向にあるので、村田の長打力は今後もっと下がると見た方が良いでしょう。

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(図4:データはデルタより)

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(図5:Fangraphsより)

村田の長打力はピークを既に過ぎており、2016年のような成績は出ないと考えた方が良いでしょう。長打力は一応平均以上の数字を保っていますが、守備の事を考慮しますとスタメンとして使えません。なので獲得するのであれば、ベンチ入りメンバーの打撃水準が低いチーム(例:代打要員がいない)かと思います。次の章で紹介するwRC+と照らし合わせますと、オリックスが村田を獲るべきだったと個人的に思っています(小谷野の代わりとして)。

 

3.従来の指標からの脱却

今回は村田の戦力としての分析をしてきましたが、印象論に頼らないエビデンスに基づいた分析がプロ・アマ問わず今後の野球界に必要となってきます。そして従来の指標(特に打率)は一選手の「真の能力」を謝って測る事が多いので、これらから脱却していく必要もあります。理由は色々ありますが、打率や打点などは他者にかなり依存した指標であるからです。

打点が一番分かりやすい例かと思います。いくら優れている打者でもランナーが塁にいなければ、打点を挙げる機会は本塁打に限定されてしまいます。逆に平均以下の打者でも、ランナーが3塁にいれば内野ゴロで打点はいくらでも稼げます。同様に打率は相手の守備に依存し、先発投手の勝ち星は味方打者の援護に依存します。このように従来の指標はノイズがかなり混ざっているのです。実際の試合だとむしろノイズをうまく利用して采配をすべきですが、オフシーズンの戦力補強はノイズを取り除いて選手を評価していくべきです。2016年にあった運が2017年にもあるとは限りませんので。

せっかくなので球場補正についても少し話します。一般的にはパークファクターと呼ばれており、 デルタはこのように説明しています:

球場の特性がプレーに与える影響、あるいはそれを特定の側面について数値化したもの。異なる環境下でプレーする選手同士を比較する際に成績を補正する目的等で使用される。得点のパークファクターが1.10であれば、その球場は同じリーグの平均的な球場に比べて1.1倍得点が記録されやすい打者(攻撃側)に有利な球場ということになる。

要するに球場によって生まれるノイズを取り除こうとする試みです(例:ホームランテラス導入前後の福岡ドーム)。そのパークファクターを考慮したwRC+という指標で見た村田修一は図6になります。wRC+の詳しい説明は割愛します、とりあえず平均的な打者は100だと考えてください。そうなると近年の村田は平均的な打者より少し打てる打者になります。

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(図6:データはデルタより)

一選手の戦力としての価値は100%正確には測れません。神のみぞ知る選手の真の能力(パワプロでいうS~G査定)があっても、その能力通りに毎年プレーする訳ではありません。なので当然ですが、一選手の各年度の成績は毎年同じではありません。その変動の原因には運、他選手のパフォーマンス、球場による影響などが関わってきます。そしてその中には純粋な選手としての成長と衰退もあります。このような考え方は村田の戦力としての分析には欠かせない枠組みです。

ちなみにですが、デルタの記事にも書いてあるようにもっと正確に比べたいなら村田を一塁手三塁手と比べる必要があります。これと言ったデータは手元にないのですが、私の経験上打撃に長けている選手が一塁手三塁手として起用されるケースが多いためです(一種の選択バイアス)。もしくは何かしらのウェイトを作る必要があります。

 

4.最後に

成績と関連がありそうな因子を全て把握出来ればまだ良いのですが、データとして観測されていない、そして観測が難しい因子もあります(例:モチベーション)。しかし出来る範囲内で選手を分析していくのが本来のフロント作業であるべきだと考えています。なので12球団のフロントが一体何を考えて、村田獲得を見送ったのか気になる所であります。

以上です。村田選手、残り試合も頑張ってください。