ビシエドはなぜ首位打者になれそうなのか?

1.首位打者争い

NPBも今季残り僅かとなりました。セ・リーグのCS争いが白熱としている中、タイトル争いもそろそろ大詰めです。そのタイトル争いの中でセ・リーグの暫定首位打者に君臨している中日のビシエドに今回は注目したいと思います。9月22日時点(多分)でのビシエドの打率は0.351であり、2位の坂本(.334)に大きな差をつけています。誰が首位打者になろうと個人的にはあまり興味がないのですが、ビシエドがなぜここまで打率を伸ばせられたのかは気になる所です。

 

2.ビシエドの打率とBABIP

ビシエドの年度別の成績は以下になります:

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(データはNPBデルタより)

打率に注目すると、ビシエドの今季の打率は2016年と2017年に比べ劇的に上昇しています。そして共に上昇しているのがBABIPです。このBABIPと言うのはインプレーの打球の打率を表す指標です。言い方を変えるとフェアグランドに飛んだ打球(本塁打は計算式から除外されます)がどのぐらいの割合で安打になったのかを示してます。普段は0.300辺りを推移しますので、ビシエドの0.358が特異な数字である事は明白です。物凄く噛み砕きますと0.300を大きく超えている打者は運が良い、逆に下回っている場合は運が悪いと考える事が出来ます(実際はもっと複雑ですが、今はとりあえずこれぐらいの認識で大丈夫です)。

計算式は以下になります:

(安打ー本塁打)/(打数ー三振ー本塁打犠飛

以前別の記事でも軽く触れましたが、打率と言う指標は(a)相手の守備(b)運(c)実力の3要素によってある程度説明がつきます。そしてこの3要素によって0.300に収束するはずのBABIPが大きく変動する可能性があるのです。BABIPについてもっと詳しく読みたい方は英文記事ですが、Fangraphsの説明を読む事をお勧めします。一応軽く説明しますと:

(a)守備

(捕)原口(一)阿部(二)マギー(三)小谷野(遊)鳥谷(左)バレンティン(中)平沢(右)ペゲーロ

もし相手がこのような守備陣だと、平均的な守備に比べ安打が増える可能性が高いです。

(b)運

どんなに優れている打者でも野手の正面に打ち続けたら打率は0.000です。逆にショボいゴロを打っても、野手の間を抜ければ打率は1.000です。運が良いか悪いかで打率が左右される可能性があると言う事です(打者はある程度打球をコントロール出来ても、それには限界がある事を前提にしています)。記憶は少々曖昧なのですが、柳田は2016年シーズンの序盤は相当数字が悪かった記憶があります。その原因は不運にあると、このグラフを作ったFull-Countの記事は書いています。

(c)実力

好打者は球を芯で捉え、より速い打球を打つ技術を持っています。なのでその技術が打率とBABIPに反映されている可能性があります。その他にもイチローのように詰まりながらもレフトに安打を打つ技術などもありますので、各選手の技術を深く理解する必要が出てきます。数字だけで野球を語れたら苦労しません。

あと足が速い選手も必然的にBABIPが高くなります(内野安打が増えるため)。もし1年間だけ内野安打を多く打ったらそれは多分運ですが、継続的に例えば10年間内野安打を沢山打っている選手の打率は運だけでは説明出来ないかと思われます。

  

3.ビシエドはどうなんだよ!

正直に言うと現時点では何も分かりません。ただビシエドは2016年と2017年に比べ、強い打球を打つ割合が高くなっているのは分かっています(5%ぐらい増えています)。なのでもしこのデータが正確であれば、ビシエドは運だけでなく実力によって打率を上げた仮説を立てる事が出来ます(ちなみにBB/Kの指標も改善しています)。ただ打球の強さに関するデータは不確定要素が多く、測定誤差が起きやすいため定かではないのも事実です(プロ野球MLBのようにStatcastの設備が整っている訳ではありませんので)。

かつ、BABIPは長い目で見る必要があります。BABIPが安定するには820の打球サンプルが必要だと言われており、分析単位も基本的にシーズンです。なのでシーズン別のBABIPを比べる必要が出てきます。なぜなら全ての選手のBABIPは0.300に収束する訳ではなく、プレイスタイル(例:足が速い)によってBABIPの真値が0.330辺りの選手もいます。その選手がもし突然0.400の数字を叩き出したら、何かが起きていると考えて問題ないでしょう。なのでもしかしたらビシエドのBABIPの真値が0.340辺りの数値である可能性があるのです。

とりあえず現時点では何も分かりませんので、来季の成績を待つしかありません。個人的にはビシエドの打率が例年通り0.260辺りに回帰すると予想しています。